「八ッ場ダム」の「うそ」と「ほんと」

*レポート「こがねい」№95より

 八ッ場ダムの建設をめぐり、中止に反対する住民やダム本体であるかのような鉄道橋桁の映像など、偏った報道が流れています。市民グループ「八ッ場あしたの会」が長年にわたって独自に行った調査や徹底した検証をもとに、報道に隠された真実をお伝えします。

●すでに八ッ場ダムの目的は失われている
今から半世紀前、八ッ場ダムの計画が浮上しました。当初の目的は、利根川中下流部の洪水被害の軽減と、1都5県に1日122万トンの水を供給することでした。
 しかし過去50年間で最大の洪水(1998年9月)が来ても、利根川の水位は13㎝しか下がらず、八ッ場ダムの治水効果がほとんどない事が明らかになっています。現在では利根川は堤防の整備が進んだため、氾濫する恐れはありません。河川改修のほうがどんな雨にでも対応することができるのです。
 また、首都圏の水使用量は、人口が増えても最近10年近く横ばいが続き、水余りとなっています。八ッ場ダムができても渇水が起こる夏期は洪水調節のため水位を下げるので、利水容量は既に首都圏にある11基のダムの5%にしか過ぎず、水がめの効果はほとんどありません。

●実は「ダムの本体工事は未着手」だった
 建設費「4600億円」の7割が使われたといわれていますが、本体工事とは全く関係ない付替の国道、県道、鉄道、代替地造成などに使われてきました。しかもこれらの関連事業の工事は、08年度末で唯一鉄道だけが75%、残りは全て1割以下の完成率です。
 民主党議員の入手データからも、委託先の関連事業のほとんどが国交省職員の天下りを受け皿としている企業で、地元事業者を差し置いて、膨大な建設費が投入されてきました。

●地域の生活再建とまちの活性化を最優先に
 かつて旧政権は、温泉まちの観光資源「吾妻渓谷」の美しい景観と引き換えに、「ダム湖を観光資源として一大リゾート地にする」地域振興構想を住民に示してきました。夏期は洪水調節で28メートルも水位が下がり、浮遊性の藻類などで水質悪化するダム湖が観光資源となるのでしょうか。また、今までダム湖がリゾート地として成功した事例はほとんどありません。さらに、八ッ場ダム建設予定地の周辺は地質がもろいため、ダムに水を溜めると浸水して地すべりが起きやすく、代替地も心配されています。
 幸い本体工事は、まだ始まっていません。無駄なダムや道路の建設費は、地元住民の生活再建の補償とまちの活性化にこそあてるべきです。住民合意のもと、必要な生活道路や公共施設をつくり、地域に新しい雇用の場ができるよう、国と1都5県が責任を持ってあたるべきです。(小山美香)

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